病院ブログ

猫が寒い季節に増加しやすい症状(特発性膀胱炎)について

2021.11.28 | ブログ

ブログ第6話 猫が寒い季節に増加しやすい症状(特発性膀胱炎)について
(今回はしゃべることが多すぎた…時間がない人はお勧めしません。)

寒くなってきて、コタツが手放せないのは人のみならずだと思います。
寒い時期には決まって、
「トイレで排尿ポーズをとるが、ビー玉程の尿しか出ていない」
「トイレで何度も排尿ポーズをとるが、出ていない」
「トイレ以外の場所で排尿している」
「尿の色が赤いもしくは茶色になった」
「元気だし、食欲もあるんです!」

このような症状をうったえて来院してくるほとんどが「猫」ちゃんです。
上記の症状の多くは猫ちゃんの場合、「膀胱炎」の可能性が一番高くなります。
もちろん、その他に鑑別しなければならない病気はありますので、獣医さんは詳細な問診や検査を飼い主様と共に進めていきます。

「膀胱炎」とは? その症状は? 治療は? 対策は?
まず、膀胱炎に代表される下部尿路疾患の臨床兆候には、頻尿・血尿・排尿痛・二次的な尿道閉塞などがあります。
その中でも猫に多いとされる「特発性膀胱炎FIC」は下部尿路兆候の中でも一般的な原因になります。
要約しますと、下部尿路兆候(頻尿・血尿・排尿痛・尿道閉塞)を示す病気で一般的なのは「特発性膀胱炎FIC」です!

その他の病気は「尿路感染症UTI」や「尿道閉塞」や「尿石症」、「腫瘍」、「神経障害」などになります。
猫ちゃんの場合は、「特発性膀胱炎FIC」がほとんどであり、人や犬に多い尿路感染症UTIは原因としては少ない傾向になります。

では「特発性膀胱炎FIC」について掘り下げていきます。
特発性膀胱炎という言葉の意味から説明します。
特発性(idiopathic)は原因不明という直訳になります。原因がわからないことを特発性(idiopathic)という言葉で説明しております。
膀胱炎は「膀胱」の「炎症」になります。
「膀胱」は袋の形をしており、広がったり(尿を溜める)、縮んだり(尿を放出)します。
その袋の構造物の詳細は内側より膀胱粘膜GAG層(グリコサミノグリカン)、尿路上皮、筋層と呼ばれる層構造を呈しています。
GAG層は尿と直接接触する層であり、様々な刺激物質を含む尿から膀胱を守る機能を持っています。
GAG層が破綻している症例では刺激がインプットされてしまい炎症細胞が誘導されます「炎症」という現象がおこります。
その結果、尿が溜まっていないのに尿意を感じたりするようになります。

現在で「特発性膀胱炎FIC」について分かっていることは以下の通りになります。
・外的要因として、猫を取り巻く環境=ストレスが強い環境で生活している猫に発生しやすい
・内的要因として、膀胱自体のトラブル。膀胱粘膜のバリア機能の破綻、内分泌系のトラブル、交感神経系の乱れなどが起こっている

まずは「外的要因」= 悪い環境、ストレスが強い環境とは?
・多頭飼育(2頭以上)
・猫トイレの使用
・食事内容が変化しやすい
・ドライフードのみ
次に、「内的要因」= 猫自体の問題点
・肥満傾向、運動不足
・神経質、怖がり、敏感(音)
・水分摂取量が少ない

外的要因の多くは、猫という動物に対して誤った知識を持つ人間、もしくは知識不足によってもたらされる事象であることが多く、内的要因は猫自身の性格や経験などが反映されます。
猫ちゃんを飼育しようと考えている方は、もっと知識を持つ必要があると感じられます。昔とは違い、病気やその原因は医療レベル向上や多くの統計学などによりエヴィデンス(科学的証拠)が揃ってきております。獣医師もエヴィデンスをモトに飼い主様に知識や医療を提供しております。ぜひ相談を!

脱線しました…

ストレスが強い環境…いや…ストレスって何??ってなりませんか?
先生は多頭飼育がストレスだと?猫トイレがストレスだと?ストレス感じたらあかんの?いろいろな疑問が湧くと思います。ストレスとはなんでしょう??????

ストレスとは抽象的な言葉になりますが、何らかの外的要因がインプットされることで起こる生体反応になります。
ストレスを感じると人も犬も猫も、脳の中にある【視床下部】が刺激を受け、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンを分泌します。
放出されたホルモンは脳の中にある【下垂体前葉】を刺激し、下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンを分泌します。
このホルモンは【副腎皮質】に作用して副腎皮質は副腎皮質ホルモンを放出します。このホルモンのことを通称『ステロイド』と呼びます。
また副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンは【脳幹】にも作用して結果、交感神経系を刺激し、カテコールアミンを放出します。

この上記8行に書かれた現象がストレス(生体反応)となっております。

『ステロイド』知っている人なら聞いたことのある単語、さらに薬の名前だと思います。良いイメージでの認識は少ないかと思います。
しかし悪者扱いを受けやすい『ステロイド』は動物がストレスを感じた時に反応して生み出されるホルモンであることに注目していただきたい。
自分が必要なタイミングで自分で作っていることを知ってほしいのです。必要なので、作られるのです
そしてその『ステロイド』は人工的に医薬品として製造が可能であり、治療薬として使用されているのであります。
このステロイドには抗炎症作用やアレルギー反応を抑える効果などが確認されています。この効果を利用するために治療薬として存在しております。

膀胱炎…炎症…ストレス…ステロイド…炎症抑える…???
あれ?矛盾してないですか?
ストレスを感じたらステロイドが分泌されて、ステロイドは抗炎症作用があるから、膀胱炎は治まるのでは?

実は、「特発性膀胱炎FIC」の猫ちゃんはこのステロイドを分泌するバランスが悪くなっていることが分かっています。
ストレスに対してステロイドを分泌する適正量が充分ではなくなり、軽度のストレスであってもステロイドが充分対応できずに炎症を抑制できず膀胱炎が成立してしまうことになりえます。
以上のことより、ストレスを多く経験することにより、対応できる個体とストレスに敏感な個体がいるので、同じ猫ちゃんでも特発性膀胱炎になる、ならない猫が存在することになります。

では、次に検査の進め方と治療方法について

特発性膀胱炎の検査方法は、「その他の病気を除外する」ことが必要になります。このために、尿検査や腹部超音波検査、腹部レントゲン検査などを実施します。
その他の病気を除外できたならば、暫定的に特発性膀胱炎の診断となり、治療に進みます。

【治療】

【痛み止め】 NSAIDs(非ステロイド薬):メロキシカム・ロベナコキシブ / オピオイド系薬:ブプレノルフィンなど
少なからず特発性膀胱炎では痛みを感じています。
排尿痛の症状では排尿時に「オォ~」と鳴く場面が見られます。もしくはうずくまってじっとしたりします。食欲が低下する場合もあります。
もちろん上記の薬は副作用がでるリスクもありますので、よく相談して処方してもらいましょう!

【ストレスとなる要因の除去・排除=環境づくり】

よくあるストレス要因としては、不仲な猫の存在、過剰な多頭飼い、工事による騒音、来客、引っ越し、トイレのトラブルなどがよく見られる原因になります。
もっとも多いのは不仲な猫の存在です。

例えば不仲な猫がいた場合、尿意を感じた猫がトイレを目的に行動します。トイレを確認したところ、突然トイレの前に不仲な猫が視線に入りました。
しばらく居座り毛づくろいを始めました。
この事だけで、その猫はそこの場所でのトイレをしなくなります。猫が本能的にそういう生物(危機回避能力、苦手な生物との関わりを排除する能力)であることをわかってほしいです。
トイレを我慢すると、膀胱内には必要以上に尿を膀胱粘膜にさらす時間が長くなり、膀胱炎リスクをあげる結果となります。

このような環境(多頭飼育)での対処法はフェリウェイ(フェイシャルフェロモン)が有効的に作用してくれる可能性があります。
猫さん同志が、仲間として認識しあうフェロモンがあります。このフェロモンは友好的である合図であるため、リラックス効果もあります。
人工的に類似物を作り、空間に散布する方法で部屋中フェリウェイだらけにすることで猫ちゃんがリラックスする可能性が高くなります。

【抗不安薬】

治療は補助的なものと考えましょう。
いくつかの抗不安薬が特発性膀胱炎の症状改善に効果があると報告されていますが、環境の変化、フードの変化で効果が上がらない場合で使用を検討します。

【特発性膀胱炎用のフード】

ドライフードとウェットフードの場合、膀胱炎に対して選択するならば間違いなくウェットフードに軍配が上がります。
理由としてはドライフードよりもウェットフードの方が総合的な水分摂取量が増えます。飲水以外に食べ物からも水分摂取をするため、トイレに行く頻度を増やすことでリスクを減らすのが狙いになります。

次に食べるべきフードのお話です。
ヒルズサイエンスダイエット:c/dマルチケアコンフォート
ロイヤルカナン:ユリナリーS/O+CLT、ユリナリーS/Oエイジング7プラス+CLT
ドクターズダイエット:尿石ケア
c/dマルチケアコンフォートは従来の尿路結石に対する効果に加え、加水分解ミルクプロテインとL-トリプトファンを含み抗ストレス効果を狙っています。
ユリナリ―S/O+CLTには従来の尿路結石に対する効果に加え、加水分解ミルクタンパクとL-トリプトファンを含み抗ストレス効果を狙っています。
尿石ケアには従来の尿路結石に対する効果に加えて、L-トリプトファンを含み抗ストレス効果を狙っています。
見ての通りで、特発性膀胱炎はストレスの関与が注目され、ストレスに対する対応として食餌療法が効果的になる可能性があります。
人間でも「ストレス社会をぶっとばせ!」というキャッチフレーズで販売された「GABAを含むお菓子(チョコレート)」が似たようなコンセプトです。

GABAとは、γ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)の略語です。
私たちの体内に普段から存在しているアミノ酸のひとつで、様々な動物や植物にも含まれています。
GABAは、特に脳や脊髄で精神を安定させる抑制性の神経伝達物質で、交感神経の働きを抑制して、興奮した神経を落ち着かせたり、ストレスを緩和したり、睡眠の質を整えたりする効果があり、いわば車のブレーキの様な働きを担っています。抑制性の神経伝達物質は、脳の神経細胞の約30%を占めており、脳内の血流を活発にし、酸素供給量を増やしたり、脳細胞の代謝機能を高めてくれます。抑制性に対して、アクセルの働きをするのが興奮性の神経伝達物質です。主としてドーパミンやアドレナリン、グルタミン酸などですが、実は、GABAは、脳内で興奮性のグルタミン酸から作られています。抑制性の伝達物質が興奮系伝達物質から作られることで、神経伝達は両方のバランスをうまく保つように機能しているのです。

GABAはもともと体内で十分な量が作られているのですが、疲労や強いストレスにさらされると、それを緩和するために大量に消耗してしまうため、不足傾向に陥ります。GABAが不足すると興奮性の神経伝達物質が過剰に分泌されることになり、リラックスできなくなって緊張状態が続いてしまうのです。

また脱線ですね。。。
結論から申し上げますと、特発性膀胱炎は涼しい季節になることでの飲水量低下や、ストレスからの排尿我慢の結果、起こる可能性が高くなり、これらの原因に対する人間の知識共有と考え方の修正が必要となり、薬で治るといった病気ではなく、ストレスに対する対策が必要となる難しい病気です。
上記の治療内容などはあくまで参考ですので、獣医師のもと必要性を確認してください。

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