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雌性生殖器の生理学と避妊手術について最新の見解

2021.12.24 | ブログ

ブログ第7話は「雌性生殖器の生理学について」
「雌性生殖器」=「メス」の「生殖器」のことを表します。

日々の診察の中で、こういった質問に答える事がよくあります。
犬の飼い主様A:生理はどのぐらいの間隔・期間でくるのですか?
猫の飼い主様B:うちの猫は一年中発情してそうなんですけど。これっておかしいの?
犬・猫の飼い主様C:去勢手術や避妊手術をするタイミングはいつですか?
犬・猫の飼い主様D:そもそも避妊手術をしたほうがいいの?

まずはメス犬の繁殖生理学について
犬では7.8か月での発情回帰(7-8か月で発情を繰り返すという意味)する犬種が多く、毎年1.2か月はずれることもあります。ただし、6か月周期の犬については特定の季節に発情することが多いとされています。
アフリカ原産のバセンジーという犬種は一年に1回の単発情動物であり例外となることはよく知られています。

次に、メス猫の繁殖生理学について
猫は「季節繁殖動物」というカテゴリーに属します。季節で繁殖するシーズンが繰り返し行われるという意味です。では人のように桜が咲けば、春ですね。セミが鳴けば夏ですね...というわけにはいかないのは当たり前。実は日照時間で季節を感じ取っていることになります
自然光で飼育(室外飼いが主体の飼い方)すると日本国内では1~8月が繁殖季節となります。
室内飼育の場合では、1日12時間以上の照明下であれば、季節に関係なく一年中発情を繰り返します。また照明を8時間以下にすると無発情になります。
一度発情を起こすと、14~21日周期で発情回帰(発情という現象が繰り返されるという意味)します。その他は不規則な発情や持続発情を示すようになることもあります。
発情回帰する猫においては【発情前期:1~2日】【発情期:5~8日】【発情休止期:7~14日】この3つのステージを2~3回繰り返した後に1~2か月の【無発情期】に入ります。

最初に戻り、飼い主様AとBからの質問に対する答えは上記の通りになります。

犬・猫の飼い主様C:去勢手術や避妊手術をするタイミングはいつですか?

現在、メス犬とメス猫の避妊手術はOHE(卵巣子宮全摘出術)とOVE(卵巣摘出術)が主流となっております。
避妊手術を実施することで得られるメリットがあるため、日常的に手術が実施されております。
ではそのメリットは??
子宮蓄膿症の抑制
乳腺腫瘍の発生予防
糖尿病時のインスリン抵抗性の減少
てんかん症例における薬物療法に影響のあるホルモン変動抑制
先天性の凝固異常を持つ個体における発情出血の予防
まとめると上記の通りになりますが、子宮蓄膿症と乳腺腫瘍だけ考えていただければわかりやすいと思います。残りのメリットは稀なパターンになります。
このメリットのために、避妊手術を実施します。
ではその時期は?

現在、若齢で避妊手術をすることに対する「賛成派vs反対派」の意見があります。それを以下にまとめました。
□早期の(2~3か月齢)去勢手術や避妊手術に対する賛成派と反対派の意見
(賛成派)
・7週齢(2か月齢)であれば、手術は安全に実施可能(年齢に対する麻酔リスクと手術リスクの観点からの意見)
・麻酔からの回復が早い(麻酔に対する回復力の強さの観点から)
・早期に実施しても、体重増加の程度、食事量、運動量や活動量、下部尿路疾患、長管骨骨折、関節炎、免疫疾患の発生率、尿道のサイズなどに関しては関連性がない
(反対派)
・3か月齢以前に避妊手術を実施すると、尿失禁のリスクが増大する可能性がある
・成長板閉鎖が遅れることにより、長管骨の長さが延長する可能性がある(※成長板は骨の末端に位置し、そこを元に骨は伸びています。成長板が閉まる=消失すると骨の伸びも止まります)
・大型犬において脛骨高平部角が大きくなる危険性が増大する
・6~8週齢で実施すると、陰茎、包皮、膣などが小さく未成熟のままになる可能性がある

賛成派の意見も反対派の意見も去勢・避妊手術をすることでトラブルが起きる可能性があることに対しての警鐘であるので、正解と不正解の論議をしているわけではありません。
当院では6か月齢での去勢手術と避妊手術を推奨しておりますが、100年後はどうなっているかわかりません。

また中性化(去勢、避妊手術を施したという意味)と寿命の関係についても様々な研究報告があります。

米国での研究では、寿命は中性化することにより延長する結果が得られた代わりに、腫瘍での死亡率が増加すると報告されています。
寿命という意味での延長は1.4倍ほどの延長であり(10歳→14歳)数字で考えてもとても意味のある数字に感じますが、動物が亡くなった原因として「腫瘍」となる可能性が増加するということになります。長生きするけど、腫瘍になる可能性も高くなる意味ですね。

犬・猫の飼い主様D:そもそも避妊手術をしたほうがいいの?
メリットは下記の通りです。
・問題行動の抑制(生理現象などの発情に関連した出血抑制なども含む)
・性ホルモンに関連する病気の予防(子宮蓄膿症、乳腺腫瘍)

では避妊手術のデメリットは?
デメリットは下記の通りです。
・全身麻酔のリスク(手術の間だけの短期的なデメリット)
・肥満(代謝率の低下)
・尿失禁(エストロジェン反応性尿失禁。特に大型犬)
・縫合糸アレルギー(手術で使用する特殊な糸のことで、お腹の中に残しますが、ある期間で溶けていく糸です)
・卵巣遺残症候群(副卵巣が原因であることも含むが基本的には卵巣の取り残しが起きていたことが原因になりやすい)
・ある特定の疾患の発生率の増加(リンパ腫、肥満細胞腫、骨肉腫、膀胱腫瘍、血管肉腫、前十字靭帯断裂、甲状腺機能低下症など)※ただし避妊手術との因果関係が科学的に証明されていない!!

そうですね。皆さんは最後の文章に注目されると思います。
メリットに病気の予防!と掲げているのに対してデメリットでは病気の発生率が上がる結果となります。
ただし、注意してほしいのが、誰も避妊手術をするとこの病気になる!ってお話をしているわけではありません。

すべての医療においてエビデンス(科学的根拠)が医者や獣医師には必要になります。
この病気に対してこの治療で治る確率は?またこの病気での平均寿命は? このような会話に対して。医者や獣医師は研究や統計学を駆使してお話を進めます。
「この薬を使うと80%で完治したが、20%には反応しなかった薬です」
「この薬を使うと50%で完治したが、50%には反応しなかった薬です」
どう考えても80%を使いたいですよね…これがエヴィデンスです。この80%は実際に治験や実験で得られた数字であるので、医者の感覚的なお話ではありません。

話を戻すと、骨肉腫と呼ばれる病気の犬を集めたとします。
その犬を去勢・避妊した犬と未去勢・未避妊に分けた場合に、リスクが高くなったという研究が発表されたという話です。
注意したいのがその研究では、なぜ?原因は?については明らかにされておらず、結果だけを述べた形になっております。
ただし、肯定もされてないが、否定もできていないため、リスクとして飼い主様にお話をするべき情報という認識が高まってきております。
特に、リンパ腫や肥満細胞腫、骨肉腫などはG・レトリバーやロットワイラーなどの犬種ではもともとこれらの腫瘍の発生率が高い犬種に該当するため、ある特定の犬種では(犬種での発生率)+腫瘍発生のリスクを増大させる可能性があることを伝える必要があると考えており、当院ではこれらの情報を飼い主様に伝えて、個々のニーズにあった選択をする必要があると考えております。

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