ブログ第10話~アレルギー(主に皮膚疾患)の獲得について~
近年ヒトでは何らかのアレルギー症状を呈する人がおよそ3割とされており、国民病とも言われております。あの毎年やってくる花粉症もアレルギーの1つですね!アレルギー性鼻炎といいます。
甲殻類を食べると皮膚に蕁麻疹ができるのもアレルギーの結果です。イヌでも皮膚疾患の50%がアレルギーが関与した皮膚疾患と診断されております。
アレルギー検査を勧められているけど、検査料金が高すぎる!と思う方。検査したことあるけど、ずいぶん昔に検査しただけ。検査したけど違う病院で検査が不十分と言われた。そもそもアレルギー検査って何?なんならアレルギーって何?と思っている方は多いと思います。
アレルギーってどうしてなるのですか?という鋭い質問があります。
アレルギー発症には、遺伝的(家族性、皮膚バリア機能に関与する遺伝子)、免疫学的、環境的、腸管粘膜バリア機能障害、食物アレルゲン自体の特性(難消化性や高アレルゲン)、腸管内細菌叢の異常など様々な要因が関与し、またいずれか1つだけでアレルギーを獲得するわけではなく、いくつもの要因が複雑に関連することでアレルギー発症に至ると考えられています。
アレルギーはいつ獲得されるのか?
犬の場合、アレルギーはIgEが関与するアレルギー(IgEタイプ)とリンパ球が関与するアレルギー(リンパ球タイプ)の2つに分けられます。
IgEタイプの場合、生後間もなくIgE(タンパク質でもあり正式名称はIgE抗体といいます)を作り始めます。症状を呈するようになるには、経験的に1歳未満が多いと感じられますが、私が診察をして診断をつける頃には2~3歳となっている症例が多いと思います。
リンパ球タイプ(食物アレルギー)は腸管粘膜や腸管免疫が未熟な離乳期にすでに体内に食物アレルゲンが侵入してくるため、2,3カ月齢から発症することがあります。
この両者(IgEとリンパ球タイプ)での発症年齢の違いは?
IgEタイプの場合、皮膚から侵入してきたアレルゲンに対してIgEが作られます。また皮膚に付着するアレルゲンはごく微量とされており、IgEが獲得され、アレルギー発症レベルまでIgE濃度が体の中で上昇する必要があります。皮膚へ侵入してきたアレルゲンが起こすアレルギーをアトピー性皮膚炎(AD)といいます。またそのアレルゲンのことを環境アレルゲン(ハウスダストマイト)などと言い換えることもあります。
ハウスダストマイトは家の中のチリやホコリの中でも、1mm以下の目に見えにくいものを指し、ダニの死骸やフンのほか、カビ、細菌、花粉、繊維のクズなど、実にさまざまなものが含まれます。
次にアトピー性皮膚炎の発症メカニズムを図式化したものになります。
アトピー性皮膚炎の発症メカニズムとしては、まず皮膚上にてアレルゲンとの接触→アレルゲンに対してのIgE抗体の産生→IgEが肥満細胞と結合したまま待機→肥満細胞と結合したIgEがアレルゲンを感知→肥満細胞に脱顆粒を指示→ヒスタミン放出→痒みのシグナルが発生します。(上図はAACLnewsより抜粋)
リンパ球タイプの食物アレルギーは腸管粘膜から食物アレルゲンが吸収されることでリンパ球が作られます。食物アレルゲンの量はIgEタイプの皮膚から侵入する量と比較するとかなり多くの量が暴露することになります。つまりIgEタイプの場合はアレルゲン暴露が微量かつ、季節性(花粉がアレルゲンの場合)があったりするために発症までにある程度の年月を必要とするが、リンパ球タイプの食物アレルゲンは口に入る食べ物が原因なので、量が多く、犬や猫の場合同じ食事を毎日食べ短期間のうちに多量のアレルゲンが体内に入るために発症年齢が1歳未満になることが多くなります。
上図はAACLnewsより抜粋
腸管粘膜に侵入した食べ物(食物アレルゲン)が樹状細胞に認識されます。その情報をリンパ節内の未熟T細胞にアレルギー情報を伝達すると、未熟T細胞は活性型T細胞へ変化します。活性型T細胞は一部が記憶T細胞へと変化し、血液中へ放出されます。血中へ出た記憶T細胞は樹状細胞を探し待機します。食物アレルゲンが血管を介して皮膚局所に到達し樹状細胞が認識している場所に記憶T細胞が集積し、炎症反応を起こします。
ちなみに…
IgEが作られるアレルゲンは①環境アレルゲン(ハウスダストマイトなど)と②食物アレルゲンとされております。リンパ球が作られるアレルゲンは②食物アレルゲンだけです。
つまり、食物アレルゲンが関与する食物アレルギーはIgEとリンパ球が起こすアレルギーの2タイプになるのです。
難しい話……
食物アレルゲンの代表としてチキン由来のドックフードをイメージしてください。【チキン】を含んだドックフードを食べた結果、【チキンのタンパク質】に体は感作されることでアレルギーが獲得されます。
食物アレルギー反応は先ほど述べた通り、IgEかリンパ球が引き起こす反応になります。つまり【チキン】でのアレルギーを獲得した場合はIgEアレルギーなのか、リンパ球アレルギーなのかを識別する必要があります。
動物病院でよく、アレルギー検査をしました…って検査結果も持参してくれます。ただ、IgEだけの検査を実施している場合が多く、リンパ球検査が抜けていることがあります。
この場合、なぜ獣医師は検査をしなかったのか?
理由はいくつかありますが、検査費用の問題や食物アレルギーを別の方法で除外した(負荷試験など)などが考えられます。
アレルギー性疾患(特に皮膚症状)の場合、とても解釈がむずかしく診断が正確にできたとしても、二次的な皮膚感染症や内分泌疾患の併発などの存在があると治療が難しくなる傾向にあります。
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎と診断され、アレルギー検査もそれを証明する結果がでているが、治療をしても一向に改善しないなんてこともよくあります。
そもそもアレルギー性皮膚疾患の場合は完治することはほとんどありません。
またアトピー性皮膚炎なのに、皮膚感染症への対応として、抗生物質や抗真菌剤の追加治療もされドンドン治療費がかかる傾向にあります。
言い訳になりますが、皮膚疾患が1つだけとは限らない以上、治療反応や費用はどうしてもかかる傾向にあるのでそもそもの根本にある皮膚疾患を正確に診断し、そこからの派生として起こる皮膚疾患への対応を柔軟にすることで、生涯を通して楽な治療方法を選択していきたいと私たち獣医師は日々考えております。
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