病院ブログ

アレルミューンHDM治療について

2023.02.20 | ブログ

ブログ第16話【アレルミューンHDM治療について】

今回は症例紹介と獣医さんの考え方がわかる内容になります。

まずは画像をみてみましょう♪


この犬ちゃんは柴犬のハルちゃんです♪
初診時の写真(before)と治療後(after)の写真です。
初診時は【ずっと痒がっている】というだけあって、ひどい皮膚症状【丘疹、膿痂疹(球菌検出)、紅斑、苔癬化、色素沈着、脱毛】が確認されました。
治療内容を問診すると【ステロイド、アポキル、シクロスポリン、サイトポイント、食事治療にアミノペプチドフォーミュラ、ヒノケアシャンプー治療】と返答が返ってきました。

まず治療内容は明らかにアレルギー性皮膚疾患に対するアプローチであることがわかります。
今回はセカンドオピニオンでもありますので、慎重に診断を進めていく必要性があります。
獣医師の脳は、犬種から柴犬=アトピー性皮膚炎の優先順位を高く考えてしまいがちになります。間違いではなく正解ですが、お決まりの考えに型にはめないようにしなければなりません。

【痒み】を起こす疾患としては、

①感染症(細菌性皮膚炎、マラセチア性皮膚炎や糸状菌による皮膚炎、demodex(毛包虫)、疥癬(かいせん)やノミ・マダニなどの寄生虫性皮膚炎)
②アレルギー性皮膚疾患(食物アレルギーとアトピー性皮膚炎)
③脂漏症(原発性脂漏症と二次性脂漏症)
が鑑別診断にあげられます。

まず当院の場合は、感染症の検査を済ませます。
また問診で経口投与タイプのノミ・マダニ駆除剤を飲んでいるのかも伺います。(薬を飲んでいる場合は、寄生虫性疾患を大幅に除外できる可能性が高いからです。)
ハルちゃんはアレルギー性疾患の対応をしっかり施されており、逆に感染症の見落としがあるかもしれないので検査をしたところ、細菌(球菌)が検出されました。

細菌の検出は珍しいことではありません。まず、動物の皮膚には必ず常在菌と呼ばれる細菌が存在します。
基本的には痒みを起こしたり、皮膚炎を起こすことはありません。(起きたとしても一過性、もしくは対症療法的な治療に反応し、程度の軽い症状で済む)
しかし、他の皮膚疾患が起きた時には細菌の増殖が始まり、細菌性皮膚炎と判断できる状態にまで悪化することもあります。

では。ハルちゃんの皮膚をじっくり観察しましょう♪
左画像:膝の皮膚(紅斑、丘疹、脱毛) 右画像:背中(脱毛、丘疹軽度)
ここで、柴犬=アトピー性皮膚炎!
というように型にあてはめないよう診察しなければなりません。つまりはアトピー性皮膚炎を証明するために、アトピー性皮膚炎以外の疾患が隠れていないかを明らかにしていきます。
皮膚病の場合は、根本的な皮膚疾患が原因で様々な皮膚疾患を新たに発生しやすくなるため、一つ一つ丁寧に治療しなければ根本疾患にたどり着くことができません。
つまりは、なかなか改善しないことに飼い主様が不安感をもつため、治療を諦めたり転院する可能性が高くなります。

上記画像の通り、細菌性皮膚炎の診断をし治療に入ります。幸いなことに抗生剤などの治療を受けた経験は少ないとのことで、薬剤耐性菌の問題も気にせず、第一選択とされる抗生剤を処方し、一定の改善がみられました。

多少の改善はありますが、やはり皮膚の紅斑(赤み)などは続いております。
根本的に【アトピー性皮膚炎】【食物アレルギー】などの皮膚疾患が隠れている可能性があります。
可能な限り他の疾患を除外できたので、本格的な検査治療の相談をしていきます。

アレルギー検査は過去にしたことがあるとのことでしたが、約6年前とのことでした。
アレルギー検査は解釈に注意が必要となります。例えば、アレルギー検査を実施した季節や時期にも注意が必要です。
比較的にアレルゲンとなる物質が少ない時期に検査をしてしまうと、本来はアレルギー傾向にあるものが隠れてしまう可能性もあります。

左画像:IgE検査、右画像:リンパ球検査
画像の結果からは、ハウスダストマイト(特にダニ系)が原因のアトピー性皮膚炎の可能性もあり、食物アレルギーの可能性もあります。
左図では食物アレルギー検査のIgE検査の結果はすべて陰性。しかし、右図の通りリンパ球検査では反応していることがわかりますね。(このことについてはブログ10話を参照)

注目すべきは、左図の【Derf 2特異的IgE:337ng/ml】という結果です。
Derf2はコナヒョウヒダニ由来の抗原とされ、十分に感作されているという判断になります。

結論から述べますと、【チリダニ由来のハウスダストに関連したアトピー性皮膚炎と食物アレルギー】が根本的な皮膚疾患の原因と推定されます。
アトピー性皮膚炎の治療は初診時の問診の内容ですべて実施されていました。ではなぜ以前の病院では治らなかったのか?
この病気はアレルギー以外の皮膚疾患を併発することが多いので、併発疾患によってはコントロール不良になります。
併発疾患を起こすことで痒みの改善が少なかっただけなのか、もしくは柴犬アトピーだからここまでが限界(痒みのコントロール)なのかな?って考えてしまったのかもしれません。

細菌性皮膚炎を治療することで、細菌性皮膚炎由来の痒みが消えます。今回はアレルギー由来の痒みの対応をしていきます。

治療薬は副反応も少なく、使いやすいアポキル(オクラシニチブ)にて治療を開始しました。
反応はしましたが皮膚状態は改善しきらず、途中にアポキルからステロイドへと変更しました。
ステロイド治療も以前の投与量を詳しく調べると推奨投与量より大幅に少ない投与量のため、適正な投与量で開始させていただきました。
ステロイドは副反応もあるし、長期投与は避けたい薬です。ただ使い方を適切に症例に応じた投与量を守れば、心強い治療薬になってくれます!
ステロイドのおかげで想像以上に痒みが改善され、ハルちゃんの毛もフサフサになってきました。
あとはステロイドの投与量を症状に合わせて増減するだけ!ではなく、次のステップに進みます。
今回の治療をまとめると図のSTEP03まで進みました。ここからが本題です。
【アレルミューンHDM】の投与とSTEP04にあります。
これはアトピー性皮膚炎の新しい治療方法の一つになります。
治療内容は【減感作療法】に分類されます。後に述べますが、減感作療法をスタートする時期もコツがあります
ヒトの花粉症治療にも実施されている治療法で、アレルゲンに徐々に慣らしていくという治療です。
先ほど【Derf 2特異的IgE:337ng/ml】という結果を説明しました。
この結果からハルちゃんにはアレルミューンHDMによる減感作療法が有効である可能性が高くなります。
(残念ながらすべてのアトピー性皮膚炎に適応するわけではありません。)

チリダニがそれぞれの濃度で調整されており毎週1回注射を合計6回します。

この治療により、次回のアトピー性皮膚炎の症状を最小限にすることが目的となります。
この治療は現時点の痒みを止める効果ではなく次の痒みの波を最小限にする治療法です。
そもそもアトピー性皮膚炎は季節性が強いものであり、チリダニが多く発生しやすい6月~11月が最大限かゆくなります。
冬になりチリダニの発生が減ると自然と痒み症状も改善されるはずです。(もちろん食物アレルギーやその他の皮膚疾患の併発があればこの通りではありません)
1年を通して、比較的症状が軽い時期に減感作療法を開始するほうが良いと考えられます。
理由としては、痒みを消すといったダイレクトな効果を期待するものではないこと。
症状が悪化しやすい時期に減感作療法を導入すると、毎週注射をしている割には大きな効果は得られないため、飼い主様が治療継続を断念される可能性が高くなります。

ハルちゃんも一年を通して比較的症状が落ち着いてきた時期(冬1~2月)に減感作療法を開始しました。
毎週注射で合計6回通院していただき、終了いたしました。あとは悪化する時期にアレルミューンの効果がどこまで通用するかどうかです。
研究レベルではありますが、アレルミューンの継続治療を追加する方が良い結果をもたらす可能性が示唆されましたので、可能な限りの間隔で注射を継続していくつもりです。

もともとアトピー性皮膚炎を治すことはできないのが現実です。ステロイドもアレルギー反応の結果、生まれた痒みを消すだけですし、アポキルも痒みの伝達を消すだけです。
あくまで症状の打ち消しをメインとしており、根本的なアレルギー反応は起こっているままなのです。
ではそのアレルギー反応を減らせたらどうでしょうか?そのことを期待できる唯一の治療が減感作療法です。
アレルミューンHDMは症例によっては完治レベルまで症状が消失する可能性もありますが、以前よりはマシになった程度に終わる可能性だってあります。

ハルちゃんは抗生剤治療(終了)と食事療法(継続中)とステロイドによる痒みのコントロール(継続中)だけでフサフサの別犬状態に(笑)
次の痒みの波に乗らないように、アレルミューンを選択していただきました。

次回の痒みの波に乗らず、薬をやめることだってできる可能性もあります。
そのようになってくれることを祈りながら、診察時に激おこぷんぷん丸のハルちゃんを見守っていきたいと思います。

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