今回のブログは輸血について。
まずは「輸血の歴史」からウンチクを語らせていただきます。
血液は生命の根元であるとされ、古代エジプトやローマの時代からヒトや動物の血液が若返りや病気回復の妙薬として利用されてきました。
①輸血の始まり/動物からヒトへの輸血(え?異種間輸血?)
②輸血の成功第一例/ヒトからヒトへの輸血
③血液型の発見/輸血の黎明期
④抗凝固剤の開発/輸血の確立
⑤輸血の発展/血液銀行の設立
⑥現在の輸血/安全性の担保と献血体制の確立
まず、動物の血液をヒトへ輸血というスタートで驚きでしたね(笑)今では「拒絶反応」という言葉があるように基本的には他種よりも同種が好ましいとされております。
当たり前ですが、最初は成功することはなく、人⇒人への輸血で若干数ですが、成功例が増えたそうです。ただ抗凝固剤もない時代ですので、成功例は少なかったはずです。
今では「血液バンク」といった言葉も聞きなれたと思います。血液をストックすることができるようになりました。すべてはストックする血液は献血によって確保されております。
今でこそ当たり前の治療ではありますが「輸血」という手段が、大昔より治療として利用しようとする時代には本当にチャレンジングな時代だったと思います。
他種属からの輸血から始まり、同種輸血、血液由来感染症の問題などを乗り越えて人医療において無くてはならない治療方法が確立されました。
輸血用血液製剤には、
「赤血球液製剤」
「濃厚血小板製剤」
「新鮮凍結血漿」
「血漿分画製剤」があります。
現在は、採血した全血献血は遠心分離して、赤血球、血漿、血小板の3種類の成分である「赤血球液製剤」「濃厚血小板製剤」「新鮮凍結血漿」に分けられます。
成分献血(アフェレーシス)で採取された献血血液からは、「濃厚血小板製剤」と「新鮮凍結血漿」が得られます。このように、患者さんが必要とする成分だけを輸血する「成分輸血」が主に行われています。
新鮮凍結血漿からはさらに「血漿分画製剤」が作られます。これには、「免疫グロブリン」、「血液凝固因子」、「アルブミン」「フィブリン接着剤」などが含まれます。「成分輸血」は、患者さんにとって不必要な成分が輸血されないですむため、循環器(心臓や腎臓など)の負担が少なくてすみます。
貧血には赤血球製剤、出血症状には血小板製剤や凝固因子製剤や血漿製剤を輸血します。血圧の維持には赤血球、新鮮凍結血漿、アルブミン製剤等も投与します。
ただし残念ながら成分輸血などの全血から分割していくには大型で特殊な機材が必要となり、個々の動物病院でもそこまで揃えることは困難であることが多いと思われます。
このために、多くは新鮮全血輸血(献血した血液を8時間以内にそのまま輸血する)を使用することが多いと私の経験からは言えると思います。
人医療においての輸血の使用状況でデータを取ると、「輸血」をした人の80%が「何らかの病気」が理由となっており、事故や怪我などでの輸血は全体の3%の使用率という統計が取れました。「何らかの病気」については悪性腫瘍が原因として多くなっております。
動物医療においても輸血治療は確立されております。やはり原疾患を治療するまでの間、「凝固異常・血小板障害・ならびに血小板減少を伴う貧血、重度の外傷や出血への対症療法であり根治的な治療方法ではありません。むしろ救急療法の一つとされ、リスクを含むデメリットを考慮する必要があります。
今回は凝固異常が原因と考えられ止血ができなくなった結果、重度の貧血となったワンちゃんを経験しました。
止血ができないとみられる症状に紫斑(内出血)が皮膚に認められます。実際の写真です↓
凝固異常という言葉が出ましたが、ブログ第一話を参考になさってください!
出血を止める現象の止血が凝固因子とよばれる生理活性物質の異常(多くは欠損)により不可能になることを言います。
残念ながら多くの止血異常(凝固因子による)は事前のチェック(術前検査)でも検出できないこともあります。
今回も事前の止血機能検査(PT・APTT)には異常はありませんでした。
止血ができないので、一度出血すると血液をどんどん失うことになります。
この場合は失った血液と、損なわれている凝固因子を同時に補充する必要性があるために、新鮮全血輸血が適応となります。
実際の輸血の写真です。↓
また別の症例ですが、子宮蓄膿症(細菌感染症)による敗血症性ショックとエンドトキシンやサイトカインが原因と考えられるDIC(播種性血管内凝固)となったワンちゃんです。
特徴的な症状に舌壊死もみられました。実際の写真です。↓
実際にこのような状態にまで悪化した場合は輸血が必要となります。
ただし、人医療と違い動物医療の現場においては血液バンクが存在しません。つまりは血液のストックが常時必要なだけストックされていることがほとんどないことです。
成分輸血の場合は保存期間が数年とされますが、新鮮全血となれば8時間以内であったりと保存さえできません。また人のように「献血」といった活動もありません。
実際には病院ごとで犬・猫を飼育し、供血する。もしくは患者様の愛犬・愛猫からご協力のもと血液を供血してもらうしか方法がありません。
保存期間の問題もあり、ほとんどが、輸血が必要な症例が来院したその日にご協力可能な飼い主様に連絡をとり、来院していただく必要があります。
凝固因子が原因での重度貧血の治療に新鮮全血輸血が必要となりましたが、当院にはワンちゃんを飼育しておりません。
つまり当院でも実際に飼い主様に連絡をさせていただき、輸血を必要とした患者がいること。その治療に血液が必要であることを説明させていただきました。
突然のお話ではありましたが、快く承諾してくださりました。
飼い主様は勿論ですが、当人(当犬)であるWillちゃんもとても協力的で助かりました!
協力してくれたWillちゃんです!
まず大型犬です!オールド・イングリッシュ・シープドックという犬種です!上図はいつもの定位置のWillちゃん(笑)
診察室に入るとすぐに診察台に前足を乗せてから耳掃除の処置などをします!とてもかわいいですね!
輸血をする場合は供血する犬は大型犬が理想になります。超小型犬では体重が少ないため血液量も少なくなります。輸血の時には200ml~400mlを必要とするために殆どが大型犬でないと難しくなります。また供血するワンちゃんにも条件があります。
・若い年齢(7歳ぐらいまで)
・大型犬(20㎏以上)
・ワクチン接種
・フィラリア予防、ノミ・マダニ予防が毎年されていること
などが最低条件になります。
人医療でもありますが、血液を介した感染症が伝染しますので、フィラリアなどの予防も絶対条件になります。
Willちゃんは性格もおとなしく供血中もじっと我慢をしてくれました。
そのおかげで、重度の貧血だったワンちゃんも一命をとりとめて、退院することができました!
偶然にも供血したWillちゃんと輸血治療を受けたワンちゃんが病院の待合いで一緒になったときは感慨深いものだなと思いました。
もちろん、隠された病気を事前に検出できていれば、このような事態にはならなかったし、十分な準備ができていれば尚良かったと思います。考え直す必要があると感じました。
ただし、非常に稀な病気(凝固因子の疾患)であるために、すべての症例で検査をお願いするわけにはいきません。
すでに導入しているPT/APTTなどの検査以外にも頬粘膜止血時間の導入や過去の問診(痣の既往歴など)も必要だと感じました。
それ以上に必要と感じたのが、血液の供給です。事前に病気を検出しにくいのであれば、その時に対応するすべを持つ必要があります。
このため、当院では供血ドナーをのご協力をお願いしております。
詳しくは当院スタッフに相談していただければと思います。
〒770-0866 徳島市末広2丁目1番27号